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OFFICER MESSAGE

取締役/CTO 豊柴 博義

Hiroyoshi
Toyoshiba

理学博士(数学、博士号取得)。1999年より大学病院にて医療データの統計解析を担当する。2000年より米国国立環境健康科学研究所(NIEHS)において、データ解析による発がんプロセスの研究などに参加。2004年からは独立行政法人国立環境研究所にて、毒性データの統計解析・疫学研究のデザインとデータ解析の研究に従事。2006年に武田薬品工業に入社し、グローバルデータサイエンス研究所・日本サイトバイオインフォマティクスヘッド、サイエンスフェローを歴任。また臨床試験データにおける遺伝子発現データ解析やターゲット探索、さらに免疫と癌におけるバイオマーカー探索にも携わる。 2017年よりFRONTEOでライフサイエンスAIの研究開発に従事。ライフサイエンスの領域に特化したAIアルゴリズムを開発。分布仮説に基づく単語と文章のベクトル化(日米特許取得)という特徴を生かし、現在までに論文探索、創薬支援、認知症診断支援、転倒予測などのさまざまなAI製品をこの人工知能をベースに開発している。 2019年よりライフサイエンスAI CTO、2021年には執行役員に就任。2024年より取締役に就任

自社開発の特化型AI「KIBIT」に興味を持たれたら
ぜひ、開発にチャレンジしてほしい

KIBITの「非連続的発見」で未知なる創薬のタネを探し出す

FRONTEOのAI技術の特徴について教えてください

リーガルテック分野での先駆的な自然言語処理AIの活用と、「分布仮説」に基づいたアプローチが特徴だと考えています。「分布仮説」とは、1954年に言語学者のハリス(Zellig Sabbetai Harris、1909-1992)が提唱した言語学理論で、「単語の特徴とは、周囲の単語の種類と頻度で定義される」というものです。これを活用することによって、複数の文献に記述された単語からその関連性を見出すことが可能になるんです。

われわれのAIは「KIBIT(キビット)」といいます。何ができるかといいますと、私自身が創薬の分野が長いので、例え話がリーガルテックの分野ではなく、疾患になってしまうのですが、例えばある遺伝子Aと疾患Aの関連性が文献にあった場合、KIBITを活用すると、他の文献から情報を精査して、遺伝子Cが遺伝子Aと類似した特徴を持つことを見出し、遺伝子Cと疾患Aの潜在的な関連性を示すことが可能です。

一般的にモノを発想するときはAからB、BからCへと展開していきます。例えば、遺伝子Aと遺伝子Bの関連する文献と、遺伝子Bと遺伝子Cの関連を示す文献があれば、遺伝子Cと疾患Aの関連性を示唆することができ、この展開をわれわれは「連続的発見」と呼んでいます。多くの研究者は現在、AからZへと続くこの展開で新しい関連性を導いていきます。

ですがKIBITの自然言語処理では「非連続的発見」が可能です。

これは先に述べた「分布仮説」をベースにしたもので、文献の中でAからB、BからCの展開がなくても、遺伝子Aと遺伝子Cの潜在的な関連性を発見することができます。こうした未知の関連性を体系的に発見する技術で、世界で研究されていない新規性の高い標的遺伝子などを提示します。

この技術の社会的影響についてはどのようにお考えですか?

世界の創薬プロセスの効率化が期待できます。例えば、文献の中で発表されていないある疾患に関連する遺伝子を発見したリ、発見した遺伝子と類似した特徴を持つ他の遺伝子を迅速に特定し、複数の新たな治療ターゲットを提案できます。これによって現在研究されていないような創薬のタネを効率的に発見することに大いに貢献できます。

AIありきのアプローチではなく、やりたいことを実現するためのAI「KIBIT」

KIBITと生成AIとの違いは?

いまのAIのアプローチの多くは「こういう生成AIがあるけれど、何かに使えないか?」だと思うんです。ユーザーがAIに寄せていく感じですね。でも「KIBIT」は、法曹の世界で、メールを含めた膨大な文章のなかから証拠をピックアップする際、疑わしいものだけを効率的に抽出する方法があれば、弁護士先生たちの作業量を削減できるんじゃないか、という思いからスタートしています。ですからわれわれの技術開発は、”やりたいことを実現するため”に行われていて、あくまでもユーザーの希望に沿うことがベースにある。

また生成AIの多くは幅広く浅い情報を集めているため、専門性の高い単語に対応が難しい。われわれは法曹や医薬など分野を限定して、その分野での専門性を向上させることで、専門家が使いやすいAIである、そこが違いでしょうね。

ソースコードのわからない生成AI──便利かも知れないが、私は惹かれない

KIBITのどこに魅力を感じていますか?

もともと私は数学を専攻していて、製薬メーカーで創薬研究を行っていました。

なぜFRONTEOへ転職したかといいますと、先に述べたように、創薬の現場では文献を読んでおくことは必須です。そして書かれているのは「生物学」的な内容です。

私が好きな科目は数学、そして物理、化学と続き、生物は末席の末席でできるだけやりたくない。しかし創薬では「生物」に向き合わないと、化学的なアプローチもできませんし、また化学から数学的な発想をすることもできません。そんなときに自然言語処理AIのKIBITを知り、「なんだ、これがあれば、自分のやりたいことだけができるんだ」と気持ちが解放されたんです。

いまはKIBITの開発も行っていますが、そこにも数学的思考は役立っています。数学を学んでいる方はご存じだと思いますが、非連続的な発見がないと論文を書くことも、学位を取得することも難しいのです。新しい法則を見出す数学的思考に「非連続」は当たり前なんです。ですから『非連続的発見』の発想の根っこには、数学に打ち込んだ経験が非常に役立っていると思いますね。

ただもっとも大きいのは自分でソースコードを理解していることかもしれません。例えばChatGPTのソースコードはオープンではありません。企業としては当然ですが、私にとってそれがダメ。わからないものをわからないまま使うという気が起きない。またゼロから構想したいというのもあります。現状のAIのようにプロンプトを書き込むだけで〇〇ができるようになります、というのも、一般的には便利かもしれませんが、私が惹かれない理由ですね。

AI技術の課題とFRONTEOの今後の展望は?

多くのAIの主な課題は計算量の削減だと考えています。演算において発生する熱量、CO2の削減は社会課題です。ですが、KIBITでは、全く新しい計算式を採用して、これも特許を取得している技術で、演算そのもののボリュームを大幅に減らしました。これからも消費電力は課題ですが、現状でもかなりのアドバンテージだと思います。

今後、「非連続的発見」が検索システムになったら面白いでしょうね。従来の検索エンジンは、ユーザーが入力したキーワードに直接関連する情報を探すことに特化していますが、もし私たちのノウハウが使えるなら、一見関連性のない情報同士のつながりを見出し、新たな発見や洞察を促すことができます。

現在の検索手法では、自分が想定したもの以上の結果はもたらしません。しかし「非連続的発見」を取り入れた検索があってもいいと思います。セレンディピティ、つまり偶発的な発見がものごとを進める原動力にもなります。もしも、本当に実現したなら、教育や科学の分野が大きく変わるはずです。

これからのAIには数学的思考を持った人も欠かせません。連続性と非連続性を備えたシステムこそ、使いやすい。うちの会社はコミュニケーションがとりやすいというスケールメリットがありますから、KIBITに興味を持たれたなら、ぜひ、開発に挑戦いただきたいですね。

Text:Yoko Koizumi/Photo:Shintaro Yoshimatsu