Toru
博士(理学)。大手電機メーカーで30年以上にわたり自然言語処理や医療バイオ情報処理の研究開発に従事。定年退職後の2020年5月にFRONTEOへ入社。行動情報科学研究所研究開発チームで、e-Discoveryや特許調査支援システムの開発からスタートし、2021年より経済安全保障向けソリューションの開発を主導。経済安全保障分野に特化したネットワーク解析AIエンジンを開発し、サプライチェーン解析、株主支配ネットワーク解析、研究者ネットワーク解析など複数のソリューションを構築。政府・企業のリスク低減を目指し、事業を推進している
定年後の新たな挑戦で切り拓いた、
経済安全保障分野の独自のキャリア
定年を“第二のキャリア”のスタートに
大手電機メーカーを定年退職された後、FRONTEOへの転職を決められたきっかけは?

60歳が近づくにつれ、「定年後をどう過ごそうか」と考えるようになりました。嘱託で残っても収入は半減、数年で終わります。人生100年時代と言われる中で、中途半端な働き方ではなく、新しいキャリアを本気で築こうと思ったのです。
そんな折、LinkedInでリクルーターの方とつながり、FRONTEOを紹介してもらいました。「大企業出身の方が小さな会社に再就職するのは難しいこともあるので、社会勉強のつもりで社長と話してみては」と言われ、軽い気持ちで面談に臨んだのですが、守本社長と自然言語処理の話で意気投合しました。
さらに驚いたのは、社長が「別の人にも会ってほしい」と紹介してくれたのが、前職で大手製薬企業とのプロジェクトを担当していた際のカウンターパート、豊柴(現FRONTEO取締役/CSO)さんだったことです。再会の瞬間、「あれ、Toruじゃないですか。すごいご縁ですね(笑)」と。まさに運命的なご縁でした。
大企業からベンチャーへの転身は勇気が要ったのでは?

入社当初はライフサイエンスAI領域かと思いきや、実際はリーガルテックAI分野の研究開発でした。ところが入ってすぐ、社長から「OSINT(オープンソース・インテリジェンス)をやる」と言われ、翌年からはそちら専任に。最初は「何ですかそれ、美味しいんですか?」という状態からのスタートでしたが(笑)、現在は経済安全保障ソリューションとして事業化しております。
少人数体制のため、大企業とは勝手がまったく違います。研究開発だけでなく、調査、企画、営業支援、渉外、特許出願まで何でもこなす。まさに「これ誰がやる? あ、オレか(笑)」の世界でした。
もちろん大変でしたが、それ以上にやりがいがありました。大企業ではゼロから事業を立ち上げる経験はなかなかできません。企画を上申して通るまでに2年かかることも珍しくなく、その間に小回りの利く会社が先に始めてしまう。
FRONTEOでは、社長の「経済安全保障をやる」という決断のもと、すぐに動き出せた。スタートのスピード感がまったく違いました。
システムをゼロから作り上げ、事業化に漕ぎつけた
経済安全保障事業について教えてください。どのような社会的意義があるのでしょうか?

近年、米中対立の影響でサプライチェーン再構築が進み、各国で輸出入管理が厳格化しています。日本でも2022年に経済安全保障推進法が施行され、企業にはサプライチェーンの脆弱性対策や取引先・資本関係の透明性確保が求められるようになりました。
また、法令や制裁リストの変化を十分に把握できず、意図せず規制違反や制裁対象となるケース、技術流出や供給断絶といったリスクも顕在化しています。
こうした状況に対応するため、信頼性の高い公開情報をAIで分析し、リスクを可視化する「KIBIT Seizu Analysis」を開発しました。現在では政府機関や民間企業で活用されています。
当初、社長が「事業化する」と言ったときには具体的な道筋は見えていませんでしたが、5〜6人でシステムをゼロから立ち上げ、事業として形にするフェーズまで育てることができたのは大きな達成感があります。
技術開発の基本的な考え方は?
私のスタンスは「課題を起点に最適な技術を選ぶ。なければ作る」というシンプルなものです。既存技術で対応できる部分は活用し、独自開発が必要なものは自分たちで作る。そして作った技術は特許化して守る。入社後に出願した10件の特許は、すべて登録されました。
学び続け、新しいことを面白がれる人と働きたい
今後の展望と、求める人材像を教えてください

今後の課題は、世界中のデータを扱う中で増大するデータ調達コストの削減です。より多くの企業がリスク対策に取り組めるよう、コスト構造を見直すことが不可欠です。今後は研究セキュリティという新たな分野にも事業を拡大していきますが、データ調達コストの最適化はさらに重要なテーマになると考えています。さらに技術的な観点からいえば、今後ますます増えていくさまざまな種類のデータをネットワーク型の「知識」として効率的に取り扱う方法が必須であり、そこではLLMの革新的な活用も必要となるでしょう。
現場は常に変化しており、勉強が好きで、新しいことを面白がれる人が向いています。年齢は関係ありません。重要なのは意欲とアウトプットです。私自身、60歳を過ぎてゼロから事業立ち上げを経験しました。経済安全保障という新しく社会的意義の大きい分野に挑戦し、優れた仲間たちと一体となって事業を築き上げていることに、大きなやりがいを感じています。
年齢を問わず新しい挑戦をしたい方には、ぜひ仲間に加わっていただきたいと思います。

Text:Yoko Koizumi/Photo:Shintaro Yoshimatsu
